アポロニア21

Vol.37「医は忍術」?---歯科医療と社会保障の関係

 特殊な入れ歯を扱っている会社の社長さんが書いているブログの中に「医は忍術と言われるが、実際には算術で…」という箇所がありました。 この「忍術」は、おそらく「仁術」の誤植でしょうが、「医は忍術」でグーグルの検索を掛けてみると、けっこうヒットすることがわかりました。 ひょっとしたら本当に医療関係者に忍者が多くいらっしゃるのかもしれませんが、忍術で有名な伊賀や甲賀に、有名な医学部などがあるとは聞いたことがありませんので、 多分、間違いでしょう。「医は仁術」など、一つの職業の「あり方」を示す言葉で誤植がある場合、 それを書いている人が、その精神について実際には大して意識していないことを示すことが多いものだと考えられます。

 さて、歯科医療に関して言えば、「仁術」すなわち、社会保障的な役割を 歯科医師に要求している国は世界にそんなに多くありません。 福祉大国と考えられているスウェーデンでも、20歳以上の歯科医療に 保険給付するようになったのはここ数年前のことです。これも、景気悪化によって、 高額な歯科診療費を嫌って人々が歯科医院に来なくなったことを憂慮した歯科医師団体からの 要望があったためだとされていますから、とても「仁術」の話ではないでしょう。

 そのような中で、非常に例外的な国の一つが日本とドイツです。 1960年代以降、継続して保険給付の対象としてきた歴史を持っています。 そのため、これらの国では歯科医師は、政府や保険者団体による社会保障政策の一旦を担うという 特異な役割を果たしてきました。  しかし、最近、日本の歯科医師の多くは「保険制度のもとでは十分な歯科医療ができない」と 考えるようになっています。これは、保険給付額が非常に安すぎると彼らが考えているためであり、 その結果、所要の収入を上げるためには多数の患者数を診なければならず、一人ひとりの患者さんに 十分なケアができないという不満が表面化し始めているのです。この不満が、社会全体の評価基準から見て 妥当なものであるかどうかは分かりませんが、歯科医療の場合、患者さんに全面的な選択権がある 「修復補綴」の分野において、自費の併用が認められています。歯科医院でしばしば「自費にすると良いですよ」 というアナウンスがなされますが、これは、必ずしも医療判断に基づくものではなく、多少なりとも「算術」の 部分があることは事実のようです。

 逆に言えば、日本が歯科医療全般に「仁術」を押し付けているというのは、世界的に見て、 ある意味では特殊な社会構造なのだと言えるでしょう。


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