アポロニア21
Vol.21歯科の「最新技術」とは何だろうか
先日、テレビで「最新の歯科医療」なるものをランキングで紹介する番組が放映されていました。何を基準に順位をつけているのか、今ひとつ明らかではありませんでしたが、第一位は、水を使ったレーザーだそうです。実際には、これは欧米やアジア諸国では「最新」でも何でもなく、何年も前から用いられていますが、日本では、薬事法の関係で、一部の歯科医師が使っているだけです。ただし、歯科の場合、何が最新で、何が時代遅れなのか、なかなか判断は難しいものです。
18世紀における大解剖学者として知られるジョン・ハンターという外科医の『歯の病気に関する実際的論文』という著書があります。当時の歯科医療がどんなものだったのかを知る手がかりになります。 まず、矯正。この本の中には、紐を使う矯正と、プレートを使う矯正が紹介されています。今で言うところのワイヤー矯正と床矯正と言われているものに、ほぼ相当すると見られます。「デンティストたちは、この種の技術を色々持っている」とのことで、18世紀の時代から矯正が行われていたことがわかります。
次に、ホワイトニング。これは、布やブラシで機械的に汚れを取るもの、スケーリングの他、酸やアルカリで白くするものも見られます。強い酸を用いるものは、歯を痛めるとして警告していますが、それも、一部では行われていたようです。ハンターの観察が面白く、「人の歯は、冬よりも夏の方が白くなる。その理由は、微量の酸を含む果物のような食材が夏場に多く出回るからである」としています。
今ではやらないだろう、というものにTransplantationという治療があります。これは、悪くなった歯を抜き、その部分に、他の人の健康な歯を移植するというもので、当時の最新治療技術でした。もちろん、お金持ちの口の中に、貧しい若者から取った歯を移植するということで倫理的に批判されることしばしばであり、また、性病の媒介にもなると認識されていましたが、ハンターは、どちらかと言えば、この治療法の推進者の側にいたことが、本書からうかがえます。
逆に興味深いのは、窩洞を金や鉛で充填する技術は書かれているものの、人工歯、義歯といった技術について、全く言及されていない点です。歯の医療とは、歯や歯肉の病気を治すことであって、病気の結果、歯が失われたあとは、「歯の医療」の対象ではなかったということもできそうです。一見して、現在の歯科医療に非常に近いものが、200年以上前に、かなり出来上がっていたのだなあと感じます。日本では、ここ数年、歯科用CT(断層X線診断装置)やCAD/CAM(自動削り出し修復物製作システム)、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)などが「最新装置」として、一部の歯科医院に導入されています。これらが、歯科医院経営を圧迫し、場合によっては患者さんに対して高額な診療を「押し付ける」ような背景になっていることもあり、注意が必要です。「最新設備=良い医療」とは行かなないものなのです。
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