アポロニア21

Vol.27 世界をまたに商売した歯科医師―18世紀イギリスのラスピーニ

18世紀後半のイギリスには、歯科外科医(Surgeon-Dentist)を名乗った人物が現れますが、その中に、シュバリエ・ラスピーニという人物がいます。当時のさまざまな書物から彼の一生を再現し、特に、幅広く展開した「デンタルビジネス」の一端を調べてみると、彼の生き方が、意外にも、現在の「やり手歯科医師」のそれに非常に近いことに興味がそそられます。

1730年に北イタリアで生まれた彼は、ベルガモという街の大学で外科医の称号を得たと自称し、その後、フランスを経て、1752年にはイギリスに渡ります。イギリスで最初に開業したのはバースという温泉歓楽地でした。1766年以降はロンドンに拠点を移し、超一等地であるペルメルで開業。外来診療のほか、訪問診療や、市内のコーヒーハウスでの出前診療を行っていました。彼は、歯科診療に加えて、止血剤、歯みがき粉、チンキ剤の販売をしており、彼の著作物には、必ずこれらの広告宣伝のパンフレットが付いたため、本の代金は6ペンスという低価格でした。

歯と顎の構造とそれらに関係する病気の解説をした「本文」の内容は至って真面目で、当時の歯科医師が、歯の病気について現在とは異なる認識を持っていたことがわかります。例えば、「砂糖は歯肉を腐食させる」「タバコはむし歯を癒す」といったことですが、当時、都市住民の間で蔓延した歯の病気の一つは、性病薬として水銀を服用した副作用による歯肉の破壊、歯の脱落だったことも分かります。ラスピーニは、このような病気を治していたようです。

パンフレットでは、「イギリスの人々の歯の健康に対する意識は先進国のイタリアやフランスに比べて遅れている」「これらの意識を高めるのは知識あるデンティストである」と宣伝すていますが、何か今の歯科医師に似ています。先進国の進んだ歯科医療を学んだと称する彼の自慢は「バルサム止血剤」という家伝薬。何と、動脈からの出血もたちどころに止める、出血の原因となった疾患、外傷を完全に治す、医者が見離したものも、この薬は見離さないといったすごい特効薬として宣伝しています。これは、ロンドン中心街に位置した診療所だけでなく、イギリス国中に配置された代理店、西インド、東インド、アメリカ航路の船長も販路として、世界中に販売されています。面白いことに、当時は、まとめ買いするほど、単価が上がったようで、彼のカタログでは、2個セットの方が少し高くなっています。

さすがに、今の日本ではここまで宣伝すれば薬事法など法律違反になってしまいますが、これに近い業態のクリニックもあるのではないでしょうか。18世紀の古い資料をもとに、こういう商魂豊かな歯科医師の姿を再現する作業は、思いのほか楽しいものです。


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